相続生前対策Q&A
分野別Q&A
Q.相続生前対策をしよう、と思ったけども、具体的に何がありますか?
まず、相続生前対策ですべきことを列挙していくと、下記のようになります。
あなたが生きている間のための相続対策
〇家族信託
〇成年後見
〇事業承継
これらは、相続生前対策の中でも、より「生前」にフォーカスしたものになります。
家族信託や成年後見は、あなたが生きている間で、かつ認知症になってしまった、または認知症になるかもしれない、と考えられる場合にするべき対策です。
認知症になってしまうと、法的な判断能力がないとみなされ、ご自身のみでは財産の移動や処分ができなくなります。その対策として家族信託と成年後見が考えられます。
あなたが事業の経営者で、今後リタイヤを検討している、セカンドライフを楽しみたいとお考えの場合には、事業承継という手段をとることができます。
あなたが亡くなった後のための相続対策
〇遺言書作成
〇相続税対策
これらは、あなたが亡くなって、残された家族が困らないための対策といえます。
遺言書作成によって、あなたの財産を誰にいくら渡すのか、また今後家族がどうなっていってほしいのか、を書き残して、実際にそれを叶えてもらうことができます。
しかし、遺言書には様式や書き方はもちろん、考慮しなければいけないことが数多くあります。これらを無視して書いてしまうと遺言自体が無効になったり、遺言によって相続トラブルが引き起こされたりすることがあります。そのためにも、弁護士に相談することで、確実に有効で、トラブルを回避できる遺言を作成することが可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。
また、最近よくご相談いただくのが「相続税対策」。
相続税は財産額が大きい方にのみ発生すると思われていて、特に対策もせずに、亡くなったのちに実は相続税の課税対象だったために、多くの相続税を支払うことになってしまった、ということが往々にしてあります。
「財産額が小さいから大丈夫」と思っている方も、課税対象になっている可能性がありますので、相続対策をお考えの際には必ず相続税対策が必要かどうかも見直しておく必要があるでしょう。
Q.認知症になってしまうと何ができなくなりますか?
認知症が進むと法的な判断能力が失われてしまいます。
法的な判断能力が失われてしまうと、その方だけの判断では、預貯金の引き出し、口座の解約、施設の入所契約、資産(自宅不動産など)の売却ができなくなってしまいます。
Q.認知症になる前にできることはありますか?
認知症になる前にできることとして、2つ考えられます。
1、家族信託を組んでおく
家族信託とは、自分の財産を信頼できるご家族の方に託し、そのご家族の方に財産を管理してもらう制度です。
財産の管理や法的意思決定(例えば不動産の売却など)を、認知症になる前に家族に依頼する方法として、近年非常に注目されています。
今住んでいる自宅を将来処分したい、自分が住まなくなってから何かかしらの形で活用してほしい、という場合に、信頼出来る家族にその処分や活用を委託することができるため、認知症対策のひとつとして有効です。
2、成年後見契約を専門家に依頼しておく
任意後見制度は、「成年後見制度」のひとつです。成年後見制度は、本人の財産を管理し生活を保護することを目的としております。
その中でも、任意後見はご本人の判断能力がある(例えば認知症になっていないなど)うちに、財産の管理と生活の保護を信頼できる人に任せておく、という手法になります。こちらは財産に限らず、本人の生活の保護という観点が含まれます。
財産管理を信頼できる人に任せる、という点では似ていますが、制度やできること、メリット・デメリットがあるため、そこを見極めつつ、最適な認知症対策を検討されるとよいでしょう。
Q.家族信託と後見の違いは何でしょうか?
先ほどのQ&Aで、家族信託と後見では財産管理を信頼できる人に任せる、という点で似ている、とお伝えいたしましたが、では違いは何があるのでしょうか。
家族信託制度のメリット
家族信託制度では、主に下記の3つがメリットとして挙げられます。
・運用が簡単で費用が掛からない
→任意後見制度では、裁判所への定期的な報告が必要ですが、家族信託制度にはそれがありません。
・柔軟な財産管理ができる
→任意後見のもともとの目的は本人の財産保護のため、財産の処分・運用には裁判所の許可が必要となり、その手続が煩雑で、さらに言うと却下されてしまいやすい、という点がデメリットとしてあります。
家族信託制度では、家族信託契約の範囲内で、委託者が財産を自由に処分・運用できます。
・先の世代まで本人の意思を尊重した相続を指定できる
→家族信託には遺言の機能もあり、財産の相続先を指定することが可能です。加えて、遺言では、本人が死亡した時の財産の相続や処分しか指定できませんが、家族信託では「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」といって、先の世代まで財産の相続先を指定することができます。
・財産の共有状態による塩漬けを防ぐことができる
→家族信託では、委託者が亡くなった後でも引き続き受託者が財産の管理を行うことができるため、例えば不動産について、委託者が亡くなった後でも、受託者が財産の処分を意思決定・実行することができます。
ここまで書くと、任意後見制度にメリットがないように見えてしまいますが、家族信託制度になくて、任意後見制度にあるものもあります。
任意後見制度のメリット
任意後見制度のメリットは、「身上監護権」が後見人にあることが挙げられます。
「身上監護権」とは、本人の生活や療養監護に関することを代行できる権利です。
「身上監護権」があれば、後見人が本人のために入院手続きや施設の入所契約などを行えます。
通常は、本人の配偶者や子どもであれば、こうした手続きは行えますので、受託者が家族であれば、身上監護権がないことが顕在化し問題になることは少ないでしょう。
しかし、受託者を家族ではない第三者にお願いしたいという場合には、家族信託と任意後見を併用する方策を検討すべきといえます。
Q.遺言書の種類を知りたいのですが?
遺言書には、代表的な種類として、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つがあります。他にも「危急時遺言」などがありますが、あまりメジャーではありません。
「自筆証書遺言」は、文字通り自分の自筆で書いた遺言書のことです。
財産目録を除く全文をご自身の自筆で書く必要があり、代筆やパソコンなどで作成したものは認められません。また、署名・作成日付も自筆し、かならず捺印をする必要があります。
「公正証書遺言」は、公証人役場で遺言を作成する方法です。
本人が公証人役場に出向き、証書に内容を記載して署名・捺印した上で証書を封じ、同じ印鑑で封印をします。
さらに、この証書を公証人1人と証人2人以上の前に提出し、自分の遺言である旨を告げ、住所氏名を述べます。それを公証人が、封紙に日付と共に記録し、本人と証人が共に署名・捺印して、作成完了となります。
「秘密証書遺言」は、公正証書遺言と同じように公証役場で作成しますが、遺言書の内容を密封して、公証人も内容を確認できないところが相違点です。遺言書をご自身で作成いただき、それを公証役場に持っていき、後は公正証書遺言の作成の流れと同じく、保管をしてもらう流れになります。
それぞれのメリット・デメリットについては、こちらの記事もご覧ください>>
Q.遺言書にはルールがあるそうですが、具体的にはなんでしょうか?
遺言書には、作成時のルールがいくつかあります。このルールのことを「法的要件」といい、この要件に従っていないと、そもそも遺言書自体が無効となってしまう可能性があります。
自筆証書遺言を作成する場合、必ず書く人の「自筆」でないといけない
自筆証書遺言とは、本人が、本文の全文・日付・氏名を自筆で書いた書面に捺印をしたものです。活字や代筆は認められず、必ず自筆で書くことが条件となります。
署名はもちろん自筆、印鑑の捺印が必須で、かつ添付する財産目録を除く全文を自筆しなければいけない、というルールがあります。
遺言を作成する人は意思能力が必要
遺言を作成する人が重度の認知症などでご自身で判断できない状況で、遺言書を書いた場合(これは公正証書・自筆証書どちらもです)、無効にされる可能性が高いと考えられます。
それは、遺言を作成する行為が「法律行為」の一種のため、「法律行為」が有効に成立するためには,法律行為を行う者に「意思能力」が必要になります(大判明治38年5月11日)。「意思能力」とは,法律行為により,どのような結果が生じるのかをきちんと判断できる能力などと説明されます。
そのため、認知症により生じるとされる判断力障害の状態や程度によっては,遺言書の作成によりどのような結果が生じるのかきちんと判断することができない状態(=意思能力に欠ける状態)で遺言書を作成しても、その内容は無効と判断される可能性が高いのです。
ただし、ここで取り上げた「認知症であること」自体は、意思能力を総合的に判断する一つの基準にすぎず、遺言の内容が不自然(例えば特定の相続人に極端に有利な内容)な場合や、遺言を作成する人と遺言に記載された人との人間関係が不自然な場合などを総合的に鑑みて判断されます。