後見
成年後見制度、任意後見制度とは?財産管理の方法についても解説
人生100年時代といわれてはいるものの、平均寿命の伸び率に比較すると健康寿命の伸び率は大きくないといわれています。認知症にかかる高齢者も多く、財産管理の方法に関心のある人も多いでしょう。その一つの解決策として「成年後見制度」が挙げられます。どのような制度なのか解説していきましょう。
成年後見制度とは
認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な人の財産や生活を保護し、支援するための制度が「成年後見制度」です。
判断能力が低下してしまうと、預貯金の管理や、老人ホームへの入居契約、財産の管理運用、遺産分割協議などにおいて、適切な判断が難しくなります。
場合によっては、これらをすることを制限されてしまうかもしれません。
同制度は、本人の判断能力低下を親族や専門家が補って、法的に支援するために2000年に施行されました。
成年後見制度の種類
成年後見制度には、大きくは2つの種類があります。
1.任意後見制度
いまのところは、本人に判断能力があるけれど将来が不安というような場合に利用できる制度です。
あらかじめ本人が任意で決めた代理人(任意後見人)に、生活や財産管理に関する行為に代理権を与える契約を公正証書で結んでおく制度です。
事前に任意後見契約を結んでおき、実際に認知症などにより判断能力が低下した段階で、任意後見人となる人や親族が、家庭裁判所に申し立て(後見監督人選任の申立)を行い、任意後見を開始します。任意後見は、任意後見監督人の選任によって開始します。任意後見人は、後見人が不正行為をしないように監督をします。
2.法定後見制度
既に認知症などで本人に判断能力がない場合に、家庭裁判所に申し立てを行い、後見人を選任します。主な目的や行えることは任意後見制度とあまり変わりませんが、法定後見人の場合には本人が行った契約の取り消しを行うこともできます。法廷後見人になる人は本人による指定ができません。
また、成年後見制度は本人の障害の程度によって、次のように3つに分けられています。
・後見
ほとんど自分では判断ができない最も重い状態です。後見人は財産に関する法律行為を本人に代わって行うことができ、本人が行った不利益を被るような契約などの法律行為を後見人が取り消すことができます。
・保佐
判断能力が著しく不十分で、簡単なこと以外は自分では判断できない状態です。保佐人は本人が申し立てをした特定の法律行為について代理で行うことができ、本人が行った不利益を被るような契約などの法律行為を、本人または保佐人が取り消すことができます。
・補助
判断能力が不十分で、日常的なことは自分で判断できるが、難しいことになると本人では判断が難しい状態です。補助人は本人が申し立てをした特定の法律行為について代理で行うことができ、本人が行った不利益を被るような契約などの法律行為を取り消すことができますが、法律行為は民法第13条第1項で定められた範囲に限られます。
後見人はどんなことをするのか
後見人は、本人の意思を尊重しながら、本人に代わって必要な行為をし、本人の財産を適正に管理していきます。主に、次のようなものが挙げられます。
・本人のために介護サービスや施設などの利用契約を行う
・本人の預貯金や支出の管理を行う
・本人の不動産など資産の管理を行う
・報告書類を作成し家庭裁判所への報告を行う
基本的には、本人の生活などを考慮しつつ財産の管理を行い、それを報告することになります。また、後見人には本人の介護の義務はありません。(家族が後見人になっている場合に家族が介護することは問題ありません。)
後見人制度の申し立て、きっかけは口座の凍結?
最高裁判所が公開しているデータによると、成年後見制度の申し立てをする人と本人の関係において、最も多いのが「子」、次いで「市区町村長」、「本人」となります。よほど本人に身寄りがない、身内の連絡先が分からないという場合以外は、子か本人が申し立てしているようです。また、申し立てするきっかけとなった動機については、「預貯金等の管理・解約」が最も多く、次いで「身上監護」となります。
実は、銀行では、口座の名義人本人が認知症で本人の意思確認ができる状態でないと判断した場合、口座を凍結してしまいます。
したがって、現実には、本人が認知症になってしまったため預貯金の引き出しや口座解約ができなくなってしまい、その子や配偶者が成年後見の申し立てするといったケースが多いと考えられます。本人が存命のうちに、口座の凍結を解除するには、後見人制度を利用するしかないのです。
成年後見制度のデメリット
ここまで見てくると、メリットの多そうな成年後見制度ですが、デメリットもあります。
手間暇や費用がかかる
成年後見制度は、後見を受ける本人の生活や財産を守るための仕組みです。そのため、裁判所および場合によっては弁護士などの専門職後見人が財産管理に関与することになります。
後見人は配偶者や子などの親族でもなることができますが、先ほどの最高裁判所の公開データでは、7割以上が親族以外の第三者が選任されています。親族が後見人となって、財産を不正に使ってしまう問題などが後を絶たないためでもあります。
後見を受ける人は、後見人(配偶者や子など)と同居していることも多く、生活費などが一体となっていることも多いです。ところが生活費でかかった領収書などをいちいち後見人となった弁護士などに渡さなければなりませんし、場合によっては本人のための支出であっても却下される可能性もあります。また、司法処理や弁護士が後見や後見監督人になった場合にはその報酬費用も発生しますので、同居人が経済的に苦しい立場にある場合、非常にストレスを感じる可能性もあります。
財産の運用や処分、組み換えなどができない
例えば、親が施設に入所したため自宅を賃貸アパートに建て替えて、その収入を親の介護費用や治療費にあてよう、と考えたとしても、家庭裁判所に却下される可能性が高いです。あくまでも、後見制度は「本人の財産を保護する」ための制度のため、財産を使って運用するという考えは許可されないのです。
財産を本人以外が使うことができない
例えば、父が被後見人になった場合、父の介護のために子が仕事を減らし収入が減ったとしても、父の財産から減った分の生活費を受け取ることはできません。そのため、家族の生活水準が下がってしまう可能性もあります。
このように、成年後見制度はメリットやデメリットもあり、本人だけではなく家族の生活状況や将来の計画などを慎重に検討して利用する必要があるといえます。多くの細かいケーススタディなどをした上で決断するために、専門知識と実績のある弁護士に相談されることをおすすめします。