相続法改正解説セミナー

最近話題の相続法改正について 取り上げます。

第1 遺言制度

1 自筆証書遺言の方式緩和

(1) 施行日

2019年1月13日

もう始まってます。

では、どのように変わったか見ていきます。

これから遺言を書いてみようと少しでも思っている方は、よく聞いておいて下さいね。財産が多い方は特に違いますよ!

(2) 内容 5

ア 改正の概要

まず、自筆証書遺言というのは、公正証書遺言と違って、遺言を残そうとする人が、紙とペンと印鑑さえあれば作れる遺言のことです。これは、過去の制度だと,遺言者が,遺言書の全文(この財産は、長男に、この財産は二男に、妻には残りを全て相続させるという本文ですね)はもちろんですが,日付及び氏名を自書(自ら書くこと、手書きですね)して,これにハンコを押さなければならないとなってました。

財産の種類がたくさんあって、相続させたい人に丁寧に割り振りたい人は大変でした。ウチの会社株の6割は長男に、4割は長女に、証券会社に預けている株は、相続人で平等に分けて、自宅は、妻に渡して、会社に貸してる事業用の不動産は長男に、JAさんに預けてる預金のうち300万円は世話になった誰それさんに、定期の積立は孫にってなったら、それぞれの財産がほかと区別できるように、不動産の所在とか口座番号とかを書かないといけなかったんです。せっかく残す遺言なので、あんまり訂正をたくさんして汚すのも嫌ですからね、失敗したら書き直したり、ちょっと大変だったんです。

今回の改正によってによって,自筆証書によって遺言をする場合でも,自筆証書に相続財産の全部又は一部の目録(以下「財産目録」といいます。)を添付するときは,その目録については自書しなくてもよいことになります。さっきの不動産とか預貯金とかは、不動産登記のコピーをくっつけたり、通帳のコピーをくっつけたりすればいいことになったんです。

イ 財産目録の形式に決まりはありますか?

さきほど、不動産登記のコピーとか通帳のコピーとかいいましたが、目録の形式については,自由です。したがって,遺言者本人がパソコン等で作成してもよいですし,遺言者以外の人が作成することもできます。

ウ そもそも財産目録はどのようなときに作成するのですか?      

これは、今回の変更の理由とも直結することで、話の中で既に出てきていますが、例えば,本文に「別紙財産目録1記載の財産をAに遺贈する。」とか「別紙財産目録2記載の財産をBに相続させる。」と記載して,別紙として財産目録1及び2を添付するとのが簡単に遺言が作れます。このように,遺贈等の目的となる財産が多数に及ぶ場合等に財産目録が作成されることになるものと考えられます。

エ 財産目録への署名押印はどのようにしたらよいのですか?

遺言者は,自書によらない財産目録を添付する場合には,その「ページごとに」署名押印をしなければならないものと定めています。つまり,自書によらない記載が用紙の片面のみにある場合には,その面又は裏面の1か所に署名押印をすればよいのですが,自書によらない記載が両面にある場合には,両面にそれぞれ署名押印をしなければなりません。

押印について特別な定めはありませんので,本文で用いる印鑑とは異なる印鑑を用いても構いません。

オ 財産目録の添付の方法について決まりはありますか?

自筆証書に財産目録を添付する方法について,特別な定めはありません。したがって,本文と財産目録とをステープラー等でとじたり,契印したりすることは必要ではありませんが,遺言書の一体性を明らかにする観点からは望ましいものであると考えられます。

なお,今回の改正は,自筆証書に財産目録を「添付」する場合に関するものですので,自書によらない財産目録は本文が記載された自筆証書とは別の用紙で作成される必要があり,本文と同一の用紙に自書によらない記載をすることはできませんので注意してください。

カ 自書によらない財産目録の中の記載を訂正する場合にはどのようにしたらよいのですか?

自書によらない財産目録の中の記載を訂正する場合であっても,自書による部分の訂正と同様に,遺言者が,変更の場所を指示して,これを変更した旨を付記してこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければ,その効力を生じないこととされています。

2 自筆証書遺言の保管制度新設

(1) 施行日

2020年7月10日

1年後くらいからスタートですね。

新しい制度で遺言を作成したら、この保管制度も利用して下さい。

(2) 新設の理由

これまで

自筆証書遺言は自宅で保管されることが多かった→☆遺言書が紛失・亡失する危険がある☆相続人により遺言書の廃棄、隠匿、改ざんがおこわなわれる危険がある

せっかく書いたのに、書いた思いが実現されないことがあったんですね。

そこで↓

公的機関(法務局)で遺言書を保管する制度を新設→遺言書の紛失や隠匿・改ざんの防止、遺言書の存在の把握が容易になりました。

遺言者の思いがちゃんと実現されるようになります。

(3) 内容

ア 法務局に遺言書の保管を申請することができる

保管の申請ができるのは、遺言者本人のみ

保管の申請は、本人が法務局に出頭して直接しなければならない

保管申請にあたっては遺言書保管官が遺言書の審査をする。しかし、形式的な要件面の審査のみに限られる。ゆえに、本人の判断能力や脅迫されて書かされているかどうかなどの審査はしない。遺言書の最終的な有効無効までは審査対象ではない。

イ 遺言書原本の閲覧請求

閲覧請求できるのは、遺言者本人のみ。

法務局に出頭しなければならない。

ウ 遺言書の返還

遺言者は、いつでも保管している遺言書の返還(保管申請の撤回)を求めることができる。

法務局に出頭しなければならない。

エ 保管している遺言の修正

一旦、返還してもらって再度保管申請or新しいものを作成して保管申請(2つ保管される?新しいものが有効)

オ 相続人による遺言書の内容の確認

遺言者死亡後でないと内容を確認することは出来ない。

遺言者情報証明書という書類の交付を申請することになる。

原本を閲覧することもできる。

いずれかをすると相続人・受遺者・遺言執行者に通知がいく。

遺言者証明情報に基づいて相続登記をすることになる。金融機関への提示もこの書類をすることになると思われる。

カ 遺言書保管事実証明書

だれでも、いつでも、遺言者の①遺言の有無②遺言書の作成年月日③遺言書保管所の名称及び保管番号が記載された書面の交付請求ができる。

キ 検認不要

(4) 自筆証書遺言と公正証書遺言

ア 自筆証書遺言

軽易な方式

自書能力さえ備わっていれば、いつでも自らの意思に従って作成することができる。

イ 公正証書遺言

公証人の関与のもとで、2人以上の証人が立ち会う、厳格な方式に従って作成される。手間と費用はかかるが信頼性の高い制度。自筆証書遺言に比べると遺言の有効性も争われにくい。

ウ どちらがいいか

それぞれ長所短所がある。

どちらも選択できる場合には、公正証書遺言で残しておいた方が安心。

第2 配偶者居住権&配偶者短期居住権

1 施行日

2020年4月1日

2 内容

(1) 配偶者居住権

ア どんな権利?

これまで住んでいた建物に無償で住み続けることのできる権利

登記することができる 第三者から見ても配偶者居住権という権利に基づいて住んでいるんだなということが分かる。

イ 負担は?

無償ってなにも負担しなくて良いの?家が傷んだりしたらどうなるの?

「通常の必要経費」

→建物の居住に必要な修繕費、建物・敷地の固定資産税など

そこに住む以上は住むことにかかる費用は払ってねということですね。

ウ その他

譲渡禁止 配偶者に認められた特別な権利なので譲渡できません

原則としては配偶者の死亡まで。期間を定めることも出来る。

☆財産価値がある 譲渡できないのになんで?というのは後で説明します。

エ どんな場合に発生・取得できるの?

次の3つの要件が全てそろったとき

① 配偶者が、相続開始の時に、遺産である建物に居住していたこと

住み続ける権利ですから当然ですね。

② 当該建物が、被相続人の単独所有か配偶者との共有にかかかるものであること(被相続人と配偶者以外の人が持分を持っている場合はNG)

夫と長男、夫と夫の兄弟の共有とかはダメってことですね。これは、夫以外の持分を無視して配偶者居住権という強い権利を認めることはできないという理由です。

③ 当該建物について、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺贈又は死因贈与、遺言をした人の意思による設定です。相続人たちの決めごとで設定される場合です→遺産分割協議・調停・審判がされたこと

想定されている典型的なパターンは、ご主人が遺言で奥さんに一緒に住んでいた自宅不動産の配偶者居住権を贈与して、息子さんに自宅不動産の所有権は贈与するというパターンです。

自分が奥さんを残して死んでしまうかもしれないな、奥さんの終の棲家は残してあげないといけないし、奥さんが死ぬまで生活費の心配はして欲しくないなと思われる方は、是非、この権利を活用して欲しいと思います。

その理由を説明しますね。奥さんのことを大切に思う人は注意して聞いて下さいね。なにもしないと左側の「妻」のように将来奥さんが悲しむかもしれませんので。

オ なぜこのような権利が創設されたのか

※具体例

配偶者相続人のニーズ

◆これまで住んでいた建物に住み続けたい

◇生活資金として一定の相続財産を確保したい 遺族年金はもらえますが

改正前の問題点

◆を満たそうとすると→(A)建物の所有権を取得するor(B)建物の所有権を取得した相続人との間で賃貸借契約を締結する、のいずれかが必要になる。

しかし、

(A)の場合、建物の評価額が高額になり(相続分を圧迫し)、◇生活資金の確保が難しくなる。

(B)は、建物を取得した相続人が賃貸借契約の締結に応じてくれないといけないので、応じてくれなければ出て行かなければならなくなってしまう。

配偶者相続人のニーズ◆◇は、いずれも保護の必要性があるのに相続人の気持ち次第で配偶者相続人が酷な立場に追いやられてしまう。

そこで配偶者居住権という所有権とは異なる権利を創設し、居住権を確保しながら一定の生活資金が可能になるようにした。

カ さらに、婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置との関係

(ア) 婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置とは

婚姻期間が20年以上である夫婦間で居住用不動産の遺贈又は贈与がされた場合、原則として遺産の先渡しとして扱わない。当該遺贈又は贈与は考慮せずに相続することができる。

どういうことか→具体例

(イ) 優遇措置の適用対象には、「配偶者居住権」も含まれる。

(ウ) つまり、婚姻期間20年以上の夫婦間で居住の用に供している建物の配偶者居住権を配偶者に遺贈又は死因贈与すれば居住権確保のために相続財産が圧迫されることはない。

(エ) これが適用される場合、配偶者居住権ではなく所有権を配偶者相続人に遺贈又は贈与しても、居住権確保と生活費の確保という観点からは同じ。しかし、相続税としては、配偶者相続人の相続まで考えると、配偶者居住権を遺贈又は贈与した方がお得。

(オ) 配偶者居住権・配偶者居住権付所有権の価値の評価

リーフレット

(2) 短期居住権

ア どんな権利

これまで住んでいた建物に無償で住み続けることのできる権利

イ 配偶者居住権との違い

登記制度はない。

期間の定めがある。相続開始時から6か月間が最低保証期間。

あくまで、追い出されてしまう場合に備えての最低限の準備期間の保護。

財産としての評価もない。

ウ どんな場合に発生するか

① 被相続人の配偶者であること

② 相続開始の時に被相続人の所有(持分でもOK)であること

③ 相続開始の時に無償で居住していたこと

第3 遺産分割前における預貯金の払戻し制度の創設

1 施行日

2019年7月1日

2 なにが問題だったのか

預貯金は、預貯金者の死亡が確認されると口座を凍結する。

凍結されてしまった預貯金は、相続人1人、単独では払戻しを求めることができなかった。

→被相続人の預貯金で生活していた相続人の生活費、被相続人の葬儀費用の支払い、入院代の支払いなどの必要があっても、遺産分割が終了するまでは、払い戻しを受けることができない。

3 どんな制度が創設されたのか

①金融機関ごとに最大で150万円

②各預貯金の「3分の1×法定相続分」

の範囲であれば、相続人である資料を提供するだけで、金融機関から払戻しを受けることができる。

4 それでも足りない場合

家庭裁判所の決定を得ることで必要な払い戻しをうけることができる。

この要件も今回の改正で緩和された。

第4 特別の寄与制度新設

1 改正前から存在した寄与分制度

相続人の中に、被相続人の財産が減ることを防止したり、被相続人の財産が増えることに、親族として通常期待される程度を超える貢献をした相続人がいる場合、その特別の寄与をした相続人は、相続分とは別に、相続財産から、その特別の寄与に対する相当な価額を取得することができる。

2 施行日

2019年7月1日

3 内容

ア なにが新しくなったのか

寄与分(寄与料)を請求することができる範囲(特別寄与料請求権者)が、相続人に限られず、相続人以外の親族(六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族)に拡大された。

イ 特別寄与料を請求できる場合とは

① 無報酬又はこれに近い状態で、被相続人が経営する農業、その他の自営業に従事してきた場合

② 無報酬又はこれに近い状態で、病気療養中の被相続人の両要介護を行った場合

ウ 特別寄与料の具体的金額はどれくらいになるのか

①a.被相続人の会社で無償で通常の社員と同様に経理業務に従事していた場合

→寄与相続人が通常得られたであろう給付額×(1-生活費控除割合)×寄与期間

例)

給与相当額18万円/月、被相続人の収入から生活支援を受けていた額9万円/月、寄与期間10年

18万円×50%×10年=1080万円

b.被相続人の農業に長期にわたって無償で従事してきた場合

→相続財産の総額×寄与者が相続財産の形成に貢献した割合

例)40年間、被相続人と一緒に農業をしてきた。財産は全て被相続人名義で貯蓄しており、その総額は4000万円である。貢献度を30%とした場合、寄与料は1200万円である。

② 要介護2以上だった被相続人の自宅介護を5年間おこなった場合(デイサービスに週2日通った場合)

介護報酬相当額×療養監護日数×裁量割合

5358円×1304日×70%=489万782円

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